冬月の幕間閑話⑱-閑話-
稀にみる暖冬と囁かれている通り、日本海側では深刻な氷不足となっているそうですね。
今夏の天然かき氷は超高級スイ-ツの仲間入りを果たすとか果たさないとか。
そんな中私はというと「師走っていつ終わんの?」ってくらい多忙な日々を送っております。
ご存知ばーらびの年を越せない漢、日曜の冬月でございます。
自ら忙しくしてしまってる部分もあるんですけど、それはともかく何より家族総出で忙しい。
家族の中で誰かが忙しいと、自然に全員忙しくなる法則ですね。
特に子供の習い事ね、とあるスポ-ツをやってるんです。
友達と同じとこでどうしてもやりたいって本人が言うもんだから、途中で投げ出さない約束でOKしたんですよ。
これが間違いでしたね。よく調べるべきでした。
強豪だった()
なんかすんごいの。。。大会前のスケジュ-ルとか。。。
お月謝とか……
約束した手前「ちょ、ちょっと違う習い事にしようぜ」とは言えず。楽しそうに取り組んでるのでサポ-トせざるを得ない( 'ω')クッ!
当然嫁さんも忙しいし、私も仕事時間を削って日課のジム通いをこなしてる有様(ぇ)
とはいっても、この時期にこうなるのは例年通りといえばそうなんですけどね。今年は特にバタバタしてる気がします。
ということで、ネタがない←
なので今回は、嘘みたいな作り話(?!)をどうぞ。
ト-ラムないよ!
少年には、母親が二人いる。
一人は実母、もう一人は親友の母。
俯く少年に、もう一人の母は泣きながら微笑んだ。
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「海行こうぜ」
緩慢と思える時間に耐えかねて、一人が口を開く。
反対を吐く奴はいない。なぜなら、揃いも揃ってとにかく暇だからだ。
少年はにべもなく頷く。溶けるような暑さで声を出すのも億劫だった。
少年達は、いわゆる暴走族だ。
時代的には末期だろうか、だが彼らのちっぽけなコミュニティでは大いなるステータスだった。
先輩に従いたくないという理由から新しいチームを立ち上げ、旗を作り、服も揃え、嬉嬉として単車に跨る。
少年は、彼らはどうしようもなく阿呆だった。
「本当は暴走族なんかやりたくなかった。みんなで楽しく遊んでるだけでよかった。」
金髪の彼がそう零す。
仲間内でも、少年と彼は特に仲が良かった。
そんな彼が目の前で初めて口にした不満を、
もっと真剣に聞くべきだったと、少年は止まぬ後悔に濡れ続ける。
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海へ出発したのが深夜0時。
夏の夜更けは潮風すら生温い。
特に何かをするわけでもなく、ひとしきり砂浜を踏みしめた一行は地元の溜まり場へと踵を返す。
そんな帰路の最中、彼らのようなやんちゃ者なら漏れなくそうであろう、忌避の対象と遭遇する。
サイドミラ-に反射する赤いランプ。パトカーだ。
少年は『散るか』と内心呟く。
応援を呼ばれる前にバラバラになって逃げるのが最善だと、彼らは皆経験から知っていた。
集合場所も決まっている。
前方が三叉になっている道へ差し掛かり、誰が合図するわけでもなく皆一斉に三方へ散る。
幸いと言うべきか、赤いランプは少年を照らすことなく別の道へ進んだ。
そのまましばらく往くと、難なく集合場所へ辿り着いた。
同じ道へ逃げた仲間と、揃って一番乗りだ。
しばらくすると一人、また一人と、逃げおおせた仲間が帰ってくる。
15分もしないうちにほぼ集まったのではないだろうか。
そう、『ほぼ』だ。
「あれ?あいつは?」
面々を見渡しつつ、少年が問う。
金髪の彼だけまだ戻ってきていない。
「途中までいっしょだったけど、学校近くの自販機のとこ曲がってったぞ」
一人が答える。
まあもう少し待ってみようかと、誰とはなしに決定する。
そも、いつの間にか自宅に帰っていたなんてことも珍しくない為、戻りが遅かろうが特段誰一人気にはしない。
しかし30分が経ち、1時間が経ち。
電話をかけたところで出るわけでもない。
「もしかして捕まってんじゃねーか?」
そうかもしれないと、少年も薄々感じていた。
仮にそうだとしたら朝方には解放されるだろう、そうすれば連絡もつくはずだ。
一同はそう判断し、朝を待つ事にした。
少年は自宅へ戻り、一抹の不安を抱きながら夢と現の境を払う。
そして、陽が上りきる正午前。
着信音で目覚めた少年は瞼を擦りながら電話をとり、
眼前に広がる見慣れた自室が、ぐにゃりと歪んだ。
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「え?」
電話の主は彼の母親だった。
彼は母子家庭だ。
彼の母とは、面識どころか会えば一緒にゲームでもするかといったフランクな関係である。そんな日々も相まって、電話くらい普段なら気を回すほど珍しいことではない。
しかし、この時ばかりは嫌な予感がした。
「なんて…?」
意味がわからなかった。
後にして思えば、わかりたくもなかった。
だが無情にも、電話の主は同じ応えを繰り返す。
「え…?」
これも後になってみれば、なんてひどいことをしてしまったんだろうと思う。
母に、
息子の死を二度口にさせるなど。
それでもまだ、少年は意味がわからなかった。
死んだ?誰が?
ずっと一緒にいた。
だれが?
昨日もくだらないことで笑い合った。
だれがしんだ?
皆にも伝えて欲しいと、絞り出すようなか細い声が電話から聞こえてくる。
少年は『わかった』と返したんだろう。多分。
その後全員集まったことから察するに、母の頼みは漏れなくこなせたようだから。
通夜に出席した。告別式にも出席した。
初七日も過ぎた。それでもまだ、わけがわからないままだった。
金髪の彼が死んだ。親友だった。
スピード超過でカーブを曲がりきれず、コンクリートの塀に頭から突っ込んだそうだ。
大きな音で不審に思った近隣住民が、惨状を見て救急車を呼んだらしい。
医者が言うには「ヘルメットがあれば死ななかったかもしれない」と。
そうなんだろう。紛れも無く、彼自身の落ち度だ。
けどそうじゃない。少年にとって、そこではなかった。
『暴走族なんかやりたくなかった』
彼の訃報を知ってから、数え切れないほど反芻した。
聞くべきだった。もっと親身に、真剣に。
少年の前でしか零さなかった愚痴を、
少年は些末と斬り捨てた。
取り返しのつかない後悔とは、こんなにも無慈悲なものか。
「悪かったな、真剣に聞いてやれなくて」
想っても、呟いても、応えるべき相手はもういない。
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言い出したのは誰だったか。
とにかく、彼が亡くなって二週間ほど経った日のことだ。
「おふくろさんに謝りに行こう」
これには反対意見もあった。少年もその一人だ。
謝りたいというのはわかる。彼の気質を抜きにしても、外道に引き入れたことで皆一様に責任を感じていた。
ただ、彼が亡くなってまだ二週間だ。
告別式で見た彼の母は、憔悴しきった様子だった。
謝るにしても、もっと期間を空けるべきじゃないか。
なにより、
どの面下げて会いに行くというのか。
母にしてみれば、我々が憎むべき対象であろうことは想像に難くない。
結局、どれだけ罵られても頭を下げようということになった。
母の様子も心配だったが、
少年達は謝ることで楽になりたかったんだろう。
行き場のない負い目と悲しみから、どうにかして逃れたかったんだろう。
本当に、どうしようもなく阿呆で、
どうしようもなく子供だった。
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日中は仕事があるはずなので、その日の夜に全員で彼の実家へ向かった。
何を言われても頭を下げよう。いっそ殺されても文句は言えないとすら思っていた。
彼の実家に到着すると、庭に見慣れた車が停まっている。母は在宅のようだ。
インターホンを押して数秒後、玄関の灯りが点く。
少年はごくりと喉を鳴らした。
『ガチャ』
玄関が開くと、彼の母が姿を見せた。会うのは告別式以来だが、少し痩せたように思う。
「あら、みんなでどうしたの?」
母が問うてくる。
「…………謝りに来ました」
前もって考えていた言葉など、彼の母を目の前にした途端吹き飛んだ。
いや、用意していた文言も適切ではなかっただろう。
そも、どんなに考えたところでなんと言えばいいのか、皆目見当もつかなかった。
自分達が顔を出す、その時点で母の傷を抉ってしまっている。
そこから発する言葉など、どれだけ飾っても醜悪さは拭えない。
「……すいませんでした!!」
『何を抜かしてるんだこのガキ共は』、少年が母の立場ならそう思っただろう。
なんてみっともない謝罪だろうか。
何について謝っているのか、それすら述べていない。
少年は頭を下げながら自分の愚かさを呪った。
もっと伝えたいことがたくさんあった。
彼の話も、彼への思いもたくさんあった。
衝いて出た言葉が『すいません』の一言。
滑稽だろう。あまりにも。
自分達は一体何をしに来たのか、これでは本当に母を苦しませただけではないのか。
何度も繰り返される自責の最中、ふと気付く。
……返事がない。
陳腐な謝罪からどれだけ経ったのかわからないが、母からの応答がない。
『帰れ』と言われるか、もしくは罵られるかと思っていたので、想定外の沈黙にどうしていいかわからない。
「顔をあげなさい」
どうしたものかと考えていた矢先だった。
言われた通り、ゆっくりと顔を上げる。
視線の先で、彼の母は泣いていた。
心臓が痛い。泣かせたのは疑いようもなく自分達だ。
やはり来るべきではなかった。少なくとも、まだ早すぎたのだ。
少年達は、母の言葉を待った。
こちらから弁じてはいけない。何を言っても刃になると、少年達は悟っていた。
母が、ゆっくりと少年達を見渡す。
次の瞬間、
母が発した言葉に少年達は、
少なくとも少年は、天地がひっくり返ったような衝撃を受けた。
「お前達は、死ぬな」
言葉を失った。
まただ。わけがわからない。
死ぬな?どうして?
なんでそれを、よりによって自分達に?
憎んで然るべきじゃないのか。自分達は。
どういうことか、狼狽えていた自分達の様子を感じ取ったかのように、泣き顔の母が再度口を開く。
「死ぬのはうちの息子だけで充分。お前達は生きてくれ。頼むから、もう誰も死なないでくれ」
そんなことがあるか?
いっそ罵ってくれたらどんなに楽だっただろうか。
自分達は、救われた。
息子を亡くして間もない人に、息子が亡くなった原因の一端が。救われてしまった。
そんなことがあっていいのか?
『生きてくれ』と、母は言った。
どんな気持ちでそう言ったのか、その後何年経ってもわからないままだ。
けれども確かにその時、少年達はこの上なく救われた。
そしてその日から、彼の母は少年達のおふくろになった。
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十数年が過ぎた。
当時の仲間は皆それぞれの日々を送っている。
かつて少年だった自分も、皆と会うことは滅多にない。
それでも彼の命日の深夜には、必ず集まって墓参りをする。
もちろん、おふくろも一緒だ。
結婚が決まった時は、実母より先に報告へ行った。
自分のことのように喜んでくれた。
子供も見せに行った。あんたの孫だ、と。
何はなくとも盆と暮れには毎年家族で顔を出す。
「今になってあの日のおふくろの気持ちがちったぁわかるよ」と言ったら、
「それならやっとこさ半人前だね」と、手をひらひらさせておふくろが言う。
その後は毎回飽きもせず、同じ彼の話で盛り上がる。
どんな声だったか、どんな喋り方だったか、もう段々思い出せなくなってしまったけれど、
笑った顔だけは、おふくろそっくりだったように思う。
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青年には、母親が二人いる。
一人は実母、もう一人は親友の母。
語らう青年に、もう一人の母は優しく微笑んだ。
おしまい.
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